音に関わる機材を見ていると、dBという単位がよく出てきます。音量、ゲイン、ノイズ、周波数特性、録音レベル、配信のラウドネスなど、あちこちに登場します。
ところが、同じdBでも「dB SPL」「dBu」「dBV」「dBFS」「dBA」など、後ろに付く文字が違うことがあります。これらは似ているようで、実は見ている対象が違います。
今回は、ギターやエフェクター、録音、PAまわりでよく出てくるデシベルの考え方を、できるだけ実用寄りに整理してみます。
dBは「量」ではなく「比率」を表す
まず大前提として、dBそのものは絶対的な量ではありません。
メートルなら長さ、ボルトなら電圧、ワットなら電力を表します。しかしdBは基本的に「何かと比べて何倍か」を表す単位です。
たとえば、ある信号が基準より大きいのか、小さいのか。その比率を扱いやすくしたものがdBです。
音響や電気の世界では、扱う数値の幅が非常に広くなります。音圧も電圧も、ほんの少しの差から何千倍、何万倍の差まで出てきます。これを普通の倍率だけで扱うと、数字が大きくなりすぎて見通しが悪くなります。
そこで対数を使って圧縮した表現がdBです。
細かい式はさておき、実用上は次の感覚が便利です。
| dB差 | 電圧・音圧の比 | ざっくりした印象 |
|---|---|---|
| +6dB | 約2倍 | はっきり大きい |
| -6dB | 約1/2 | はっきり小さい |
| +20dB | 10倍 | かなり大きい |
| -20dB | 1/10 | かなり小さい |
| +40dB | 100倍 | 非常に大きい |
電圧や音圧の場合、+6dBで約2倍、+20dBで10倍と覚えておくと、機材のスペックを読むときに便利です。
dB SPL:空気中の音の大きさ
音量として一番イメージしやすいのがdB SPLです。SPLはSound Pressure Level、つまり音圧レベルのことです。
これは空気の圧力変化としての音を表します。基準は20マイクロパスカルで、人間がかろうじて聞こえる程度の音圧を0dB SPLとしています。
たとえば、静かな部屋が30dB SPL前後、普通の会話が60dB SPL前後、大きなライブ会場では100dB SPLを超えることもあります。
ここで注意したいのは、0dB SPLが「無音」ではないということです。あくまで人間の聴覚を基準にした非常に小さい音という意味です。
dBA:人間の耳に近づけた音量表示
騒音計などでよく見るdBAは、dB SPLにA特性という補正をかけたものです。
人間の耳はすべての周波数を同じ感度で聞いているわけではありません。低い音や非常に高い音には鈍く、2kHzから5kHz付近には比較的敏感です。
そのため、単純な物理量としての音圧だけでなく、人間がどのくらいうるさく感じやすいかに寄せた表示がdBAです。
作業環境の騒音、生活音、機械音などではdBAがよく使われます。一方で、音楽制作やスピーカー測定では、目的によってA特性以外の測定や補正なしの値も使われます。
dBu:業務用音響機器でよく見る電圧レベル
ミキサー、オーディオインターフェイス、アウトボード機器などでよく出てくるのがdBuです。
dBuは電圧の大きさを表す単位で、基準は0.775Vrmsです。0dBuが0.775Vrms、+6dBuならその約2倍、+20dBuなら約10倍という関係になります。
業務用音響機器では、基準レベルとして+4dBuがよく使われます。いわゆるプロ機器のラインレベルです。
エフェクターやプリアンプの出力レベル、ミキサーの入出力レベル、ヘッドルームの説明などでdBuが出てきた場合は、「これは電圧レベルの話をしている」と考えると理解しやすくなります。
dBV:1Vを基準にした電圧レベル
dBVも電圧レベルを表す単位ですが、基準が違います。dBVでは1Vrmsを0dBVとします。
家庭用オーディオや民生機器では、-10dBVという基準レベルがよく使われます。これは業務用の+4dBuよりも低いレベルです。
+4dBuと-10dBVは、どちらもラインレベルとして扱われることがありますが、実際の電圧は違います。そのため、業務用機器と民生機器を接続するときに、音が小さい、歪みやすい、ノイズが目立つ、といった問題が起きることがあります。
数字だけを見るのではなく、dBuなのかdBVなのかを確認することが大切です。
dBFS:デジタル録音の上限から見たレベル
DAWやオーディオインターフェイスでよく見るのがdBFSです。FSはFull Scaleの略で、デジタルで扱える最大値を0dBFSとします。
dBFSでは、0dBFSが上限です。つまり、基本的には0より大きい値はありません。録音レベルが-18dBFS、ピークが-6dBFS、クリップして0dBFSに到達した、というように使います。
アナログ機器では、基準レベルを超えてもある程度なだらかに歪むことがあります。しかしデジタルでは、0dBFSを超えると波形が切り取られ、硬いクリッピングになります。
録音時は、ピークが0dBFSに張り付かないように余裕を持たせることが大切です。特に生楽器や演奏の強弱が大きいソースでは、見た目の平均レベルよりも瞬間的なピークに注意します。
dBm:電力を基準にした古いが重要な単位
dBmは1mWを基準にした電力レベルです。
現代の音響機器ではdBuやdBVのほうがよく見ますが、古い機材、通信、測定器、無線関係などではdBmが出てくることがあります。
dBuやdBVが電圧を見ているのに対して、dBmは電力を見ています。電力は負荷インピーダンスとの関係があるため、単純に電圧だけでは決まりません。
ギターやエフェクターの一般的な説明では頻出ではありませんが、測定や古い仕様書を読むときには「これは電圧ではなく電力のdBだ」と区別しておくと混乱しにくくなります。
ゲインのdB:何倍に増幅したか
エフェクター、プリアンプ、ミキサーで「ゲイン +20dB」などと書かれている場合、それは入力に対して出力がどれだけ増えたかを表しています。
電圧で考えると、+20dBは10倍です。+6dBなら約2倍、-6dBなら約半分です。
ここで重要なのは、ゲインのdBは絶対的な音量ではなく、入った信号に対する倍率だということです。
たとえば、同じ+20dBのゲインでも、入力される信号が小さければ出力もそこまで大きくなりません。逆に入力が大きければ、同じゲインでもすぐに歪むことがあります。
楽器用プリアンプやブースターでは、この「どれだけ増幅するか」と「どこで歪むか」の関係が音作りに大きく関わります。
dB/oct:フィルターの傾き
イコライザーやフィルターでは、dB/octという表記も出てきます。octはオクターブのことです。
たとえば、ローカットフィルターで「12dB/oct」と書かれていれば、周波数が1オクターブ下がるごとに12dBずつ減衰する、という意味です。
6dB/octは比較的ゆるやか、12dB/octは標準的、24dB/octはかなり急な傾き、という感覚で見るとよいでしょう。
アコースティックギターやベースのライン音では、不要な低域をどのくらい自然に整理するかが重要です。フィルターの周波数だけでなく、傾きも音の印象を大きく変えます。
S/N比やダイナミックレンジのdB
機材のスペックには、S/N比やダイナミックレンジもdBで表記されます。
S/N比はSignal to Noise Ratio、つまり信号とノイズの比率です。値が大きいほど、信号に対してノイズが小さいことを意味します。
ダイナミックレンジは、小さい音から大きい音までどれだけ扱えるかの幅です。これもdBで表します。
ただし、スペック上の数字が良ければ必ず音が良い、という単純な話ではありません。測定条件、周波数帯域、聴感上のノイズの出方、実際の使い方によって印象は変わります。
それでも、ノイズや余裕度を比較するうえで、dBは非常に便利な物差しになります。
まとめ:dBの後ろを見る
dBで混乱しやすい理由は、同じdBという表記でいろいろなものを表すからです。
音圧ならdB SPL、耳の感じ方に寄せた騒音ならdBA、電圧レベルならdBuやdBV、デジタル録音ならdBFS、電力ならdBm。さらに、ゲイン、フィルターの傾き、S/N比、ダイナミックレンジにもdBが使われます。
大切なのは、dBという文字だけで判断しないことです。
「何を基準にしているのか」
「何と何の比率なのか」
「音圧なのか、電圧なのか、デジタル上限なのか」
この3つを見るだけで、dBの読み方はかなり整理されます。
音作りでも機材選びでも、dBは避けて通れない単位です。しかし、難しい数式から入る必要はありません。まずは、+6dBで約2倍、+20dBで10倍。そして、dBの後ろにつく文字を見る。このあたりから慣れていくと、スペック表や録音レベルの意味がぐっと読みやすくなります。
